アブラハム・ファン・ベイエレン「Banquet still life」
静物画で何を描けばいいか分からなくて困ったことはありませんか?
絵のネタやテーマに困ったとき役に立つかもしれないアイデアをなるべく多く掲載します。
今回は「静物画のコンセプト」についてまずは列挙して、その後で考察してみましょう。
とりあえずザーーッと並べてみます。
詳しく知りたい方は後半の解説、考察も読んでみてください。
1.コンセプト一覧
1 物の持つ意味や象徴性の表現
2 テーマに基づく静物画 3 色や形、質感の表現 4 光と影の表現 5 空間の表現 6 大量生産された物の表現 7 時間の表現 8 自然と人工の対比 |
2.解説・考察
1 物の持つ意味や象徴性の表現:
一見ただの物に見えるものでも、それが持つ意味や象徴性を表現する作品です。
例えば、果物の豊かさや種類、花の儚さや美しさ、古い時代の道具の風格などを表現することができます。
椿は冬に咲くキレイな花ですが、武士は忌み嫌ったそうです。
花びらが散ることなく丸ごと落ちるので、それがまるで首が落とされたように見えたからでしょう。
そういった意味で、椿は生と死を暗示させることができるかもしれません。
2 テーマに基づく静物画:
特定のテーマに基づいた作品です。例えば、クリスマスの装飾品やハロウィンのグッズ、季節の変化に合わせた食材や風景など、様々なテーマに基づいた作品を描くことができます。
夏なら祭りや花火、蚊取り線香、スイカ、虫取り網、虫かご、風鈴などたくさんあります。
ありきたりなテーマでは物足りないという場合は、ダイエットとかでもいっぱいモチーフがあります。
ジョギングシューズ、縄跳び、体重計、プロテインシェイク、ダンベルやトレーニング機器、サプリメントなどが考えられます。
また持ち物で所有者のキャラクターや仕事が分かってきたりもしますよね。
人物画で直接描くのではなく、持ち物で間接的に人物を表現するのも面白いアイデアではないでしょうか。
3 色や形、質感の表現:
物の色や形、質感に注目した作品です。例えば、金属製の道具や器具、木製の家具や玩具、ガラス製の花瓶や食器など、様々な材質の物を描くことができます。
ガラスならガラスでモチーフを統一して描くのは大変ですけど面白いかもですね。
ザラザラしたもの縛りとか、ツルツルしたもの縛り、光るもの縛り、柔らかいもの縛りという制約を課すのも面白いですね。
4 光と影の表現:
物の周りにある光と影の表現に注目した作品です。例えば、太陽光やランプの光、窓辺から差し込む光など、光と影が物に与える影響を表現することができます。
コントラストの強い絵は迫力が出るので是非チャレンジして欲しいコンセプトです。
光を感じさせるコツは背景の大部分を暗くすることです。
窓から射す光は部屋の中が暗いほど強烈に見えます。
うまくいけば、鑑賞者は眩しさで目を細めてくれるでしょう。
5 空間の表現:
物の配置や背景、周りの空間を表現する作品です。例えば、古い家具や小道具を配置した室内風景や、庭園や海岸などの風景など、様々な空間を表現することができます。
空間を表現する方法の一つとして、極端なアオリやフカンがあります。
アオリというのはローアングルとも言います。カメラを床に近づけて見上げた状態です。
フカン(俯瞰)は見下ろしたカメラアングルです。鳥やヘリコプターから見下ろした状態です。
こういった極端なカメラアングルにすることで空間を表現することもえきます。
もと極端な例だと魚眼レンズを使って、空間を表現する方法もあります。
野菜や果物などのモチーフをリアルに描いて、上手か下手かを競うのだけが静物画ではありません。
自由な角度と発想で描いてみましょう。
6 大量生産された物の表現:
現代社会で大量生産されている物を描く作品です。例えば、プラスチック製の製品や家電製品、包装材や缶詰、廃棄物などを描くことができます。
アンディ・ウォーホルのPOPアートは大量生産品を描くことでアート界に新しい表現方法をもたらしました。
彼と同じコンセプトでは面白くないので、地球環境への警鐘といったものが考えられますが、これもやや平凡化、陳腐化しています。
リサイクル品だけの画材でコラージュした静物画も面白いですね。
「コラージュ」(collage)と呼ばれるアートの形式は、異なる素材を集めて組み合わせた作品を指します。
例えば、新聞記事、雑誌の切り抜き、写真、布、紙、木材、金属、ペットボトルなど、あらゆる種類のリサイクル素材を使用することができます。
7 時間の表現:
ウィレム・クラースゾーン・ヘーダ 「ブラックベリーパイの朝食」
時間の経過を表現した作品です。例えば、腐った果物や枯れた花、錆びた道具や古い書物など、時間が経つことで変化していく物を描くことができます。
時間を絵で表現するのはなかなか厄介ですが、挑戦しがいのあるコンセプトです。
例えば、野菜や果物の種、発芽した直後、成長している途中、収穫の時期、枯れた後を一枚の絵の中に描けば、時間を超越した表現になるかもしれません。
季節の違う果物を1枚の静物画に描くというコンセプトも考えられます。
イチゴ、スイカ、梨、リンゴ、ミカン……どれもスーパーで一度に買えそうな気がしますが、スイカや梨は今でも季節ものですよね。
夏の果物と冬の果物を同時に描くのは別にルール違反ではありません。
実際、中世のオランダで静物画が流行ったときは、冷蔵庫のない時代ですから、異なる季節の果物や花を描いて部屋に飾ることで、絵の買い手は癒されていたそうです。
8 自然と人工の対比:
自然と人工物の対比を表現した作品です。例えば、自然の風景や植物と、それを取り囲む都市の風景や建物などを描くことができます。
建物は動かないから静物画のモチーフでもいいだろと思うかもしれませんが、アウトドアにあるものは基本的に風景画に分類されます。
それでも背景に建物が入ってはいけないという決まりはありませんから、ピクニックに行ったついでにキレイな草原や遠くの山々を背景にして、お弁当や果物などをモチーフに静物画を描いても全然OKな訳です。
都会の高層ビルの谷間の小さな公園で静物画のモチーフを置き、背景に人工物を描き、さらに遠景に連なる山々を描くサンドイッチ方式も面白いですよね。
補足
①静物画はもっと自由でいい
静物画は野菜や果物や身の回りのものを正確に描いておけばOKみたいな頭の固い発想はこの際、捨てましょう。
また描き方も写実だけでなく、印象派ふう、抽象画ふう、POPアートふうなど色々あります。
②絵のテーマ探しはほどほどに
壮大な構想の素晴らしい絵なんて夢を見ないで、手近なテーマでまずは「落書き」から始めてみましょう。
完璧なコンセプトやテーマが決まってから描き始めるのでは、いつまでたっても描けません。
コツは「走りながら考える」「描きながらドンドン修正していく」です。
絵を描くテーマやアイデア探しの一助になれば幸いです。
今回は以上です。